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EPISODE #09 SPRING / SUMMER 25
Carry Your Days
EPISODE #09 SPRING / SUMMER 25

気がつけば、春のやわらかな空気も少しずつ色を変え、街の木々はいつの間にか濃い緑をまといはじめました。うっすらと汗ばむほどの日差しに、冷たい風がまだ少しだけ混じっていて、なんとも言えない初夏らしい空気が漂っています。夜には、窓から入る風が心地よく、遠くから聞こえるカエルの声や、街のざわめきもどこか柔らかく響いてくるような気がします。オフィスでは、チームの何人かが「自転車を新しくしたんです」と楽しそうに話しています。 自転車のことを考えて思い浮かべるのはメッセンジャーの存在。メインストリートにひしめく車の間を縫うように颯爽と駆け抜けていく姿はニューヨークやロンドンの街の風物詩のよう。実際にその街で目にしたことはなくても、このテキストを読んでくださっているほとんどの方はきっと、映画の中のワンシーンや写真の中で見たことがあるのではないでしょうか。彼らは自転車に乗っている間は背中にバッグを背負い、荷物を送り先に届けるときには自転車を降りてバッグを胸元まで移動させ、中にしまった荷物を取り出します。雨の日も風の日も(雪の日は結構危険だけれど)もちろん夏の暑い日にもお構いなしに自転車に乗って荷物を運び続ける彼らの持つバッグはタフでなければならないし、もちろん仕事に支障があってはならないのです。

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そんなメッセンジャーのためのバッグは1950年代頃に今の形になったと言われています。荷物を出し入れしやすいように大容量のバッグの中は敢えて仕切りで区分けされることなくどんな荷物もぽいぽい入れられてすいすい取り出せる仕様。背中にぴたりとフィットさせることができるようにバックルでショルダーストラップの長さは調整可能になっています。そこに僕たちなりの一捻りを加えてできたバッグがL.LESHです。 一般的にメッセンジャーバッグと言えば雨風に耐え得る耐久性を追求して、コーデュラナイロンで作るのが主流ですが、L.LESHには水の染み込みにも強く、かつ使っていく中で味わいが増していく帆布を選びました。ショルダーストラップを調整するためにつけられたバックルも、古くからあるメッセンジャーバッグの仕様に敬意を表してプラスチックなんかじゃなくて無骨なメタルパーツを探しました。背中に背負っていたバッグをひょいっと胸元にもってくるとき、バッグのどこかちょうどいいところを掴みたい。そんなアイディアからトートバッグの持ち手の間、バッグの顔になるところにまるで「N」の文字があらわれるように橋を一本渡してみました。

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とは言え僕たちは自転車に乗る時間がメッセンジャー達ほど長くもなく、普段はもっぱら二本の足が移動手段です。日常での利便性を考えると背負うだけじゃなく肩にかけたり、手持ちでも心地よく使いたい。そこでバッグの形状は1920年〜1950年代に登場したツールバッグから引用することにしました。いつだか見たドキュメンタリーでビル・ゲイツが大きな帆布バッグに分厚い本をがさっと入れて旅行に出かける姿がとても印象的でした。もともと重たい荷物を運ぶために作られた帆布のトートバッグの源流にあるトートバッグとメッセンジャーバッグのいいとこ取りをしたのがL.LESHです。 コレクションの資料となる本や生地スワッチを詰め込んで打ち合わせに行ったり、数日間の出張だったりと普段から気兼ねなく使えて、汚れてもなんだか格好いいのはメッセンジャーバッグ、ツールバッグといった働く人のためのデザインを引用しているからでしょうか。明確な用途のために生まれたデザインを組み合わせたバッグ、お出かけやお仕事のお供にもおすすめですよ。使い込むほどに味わいを増す帆布とともに、日常の思い出を刻んでいただけたら嬉しいです。